大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

長野地方裁判所 昭和43年(行ウ)5号 判決 1975年3月27日

長野県松本市双葉町二、七六二番地

原告

矢ケ崎昭三郎

右訴訟代理人弁護士

中条政好

長野県松本市城西二丁目一番二〇号

被告

松本税務署長

草間鼎

右指定代理人

玉田勝也

柳沢正則

太田陽也

村上基次

佐藤信幸

黒柳熊夫

入沢武雄

伴野元二

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(当事者の求めた裁判)

第一原告

一  被告が原告に対し、昭和四一年一二月一五日付でなした左記所得税の更正、再更正、決定等各処分の取消を求める。

1 昭和三六年分(更正)

(一) 総所得 金六〇万〇、二〇〇円

(二) 確定税額 金七万三、四九〇円

(三) 重加算税 金三万六、五〇〇円

2 昭和三七年分(再更正)

(一) 総所得 金一三九万七、二〇〇円

(二) 確定税額 金二八万六、六六〇円

(三) 重加算税 金一〇万〇、一〇〇円

3 昭和三八年分(決定)

(一) 総所得 金一八一万六、八〇〇円

(二) 確定税額 金三〇万二、四七〇円

(三) 重加算税 金一〇万五、七〇〇円

二  訴訟費用は被告の負担とする。

第二被告

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

(当事者の主張)

第一請求原因

一  被告は原告の昭和三六年度ないし昭和三八年度分の所得につき昭和四一年一二月一五日付で更正あるいは決定処分をした。そこで原告は被告に対し異議申立てをしたところ、被告は昭和四二年四月一五日異議棄却決定をし、かつ、昭和三七年度分については再更正をして課税額等を増額させた。原告は更に関東信越国税局長に対して審査請求をしたところ、右局長は昭和四二年一一月二五日いずれも棄却の裁決をした。

その経緯は次表のとおりである。

昭和三六年度分

<省略>

昭和三七年度分

<省略>

昭和三八年度分

<省略>

二  原告は、昭和三六年ないし三八年当時、個人で建設業務をしていたものではなく、東京都千代田区神田淡路町二丁目一三番地所在の矢ケ崎建設株式会社(以下単に「東京矢ケ崎」という。)の松本出張所(以下単に「松本出張所」という。)駐在員として、同社の長野県下における建設現場の管理をしていたにすぎない。

三  仮に、被告認定のような事業所得があったとしても、それは東京矢ケ崎が納付すべきものであって、原告の所得ではない。

よって、本訴に及んだ。

第二請求原因に対する認否

一  請求原因一項は認める。

二  同二項は否認する。

三  同三項は争う。

第三課税についての被告の主張

(営業所得の主体について)

一  原告主張のように昭和三六年六月に個人営業を廃止して松本出張所駐在員となったとした場合、個人事業を営業譲渡するなどによって営業主体の転換が行われていなければならない。しかしながら

1  従来の帳簿はこれを締切り、個人事業と明確に区別してあらたに記帳すべきであるのに、原告は従前の帳簿をそのまま引続き使用していた。

2  東京矢ケ崎に営業譲渡による営業財産の対価の授受及び右財産譲渡に伴う会計処理は一切行われていない。

3  原告個人事業に使用していた建物、車両、機械及び工具器具備品の資産は原告から東京矢ケ崎に引継がれることもなく、また貸借等もなされないまま、松本出張所を開設している。

などから営業主体の転換が行われたことはない。

二  原告主張の松本出張所の駐在員であった期間についても、

1  松本出張所における事業活動はすべてに原告個人の裁量に委ねられ、東京矢ケ崎ではこれに対して何らの統制ないし監督も行っていなかった。

2  東京矢ケ崎の事業年度は毎年三月一日から翌年二月末日までであり、松本出張所分としては一月一日から一二月三一日までの期間で収支決算がなされている。

3  松本出張所における事業活動の成果は東京矢ケ崎の決算に算入されず、また、松本出張所の純損益は松本出張所の資本金に繰り入れるという会計処理がなされている。

4  原告個人事業当時の取引が松本出張所の帳簿に計上されている。

5  原告の給与は東京矢ケ崎との間で取りきめられたものでない。

などから松本出張所が東京矢ケ崎の一機関として活動していなかった。

三  昭和三八年六月二五日松本市に本店を有する矢ケ崎建設株式会社(以下単に「松本矢ケ崎」という。)が設立され、原告がその代表取締役となり、松本出張所の営業を引継いだが、

1  引継資産中に松本出張所の東京矢ケ崎に対する短期貸付金残二一八万六、四五〇円が計上されている。

2  また、引継負債のうち、短期借入金四八〇万円は、昭和三八年五月七日及び同年六月五日の日本相互銀行松本支店からの借入金三五〇万円及び同年六月二四日富士銀行松本支店からの借入金一三〇万円との合計額であるが、これは、東京矢ケ崎もしくは松本出張所の借入金ではなく原告個人の借入金である。

などから東京矢ケ崎と松本出張所とは同一企業体ではない。

四  以上のように、松本出張所は東京矢ケ崎と同一企業体でなく、実質的には原告個人が自からの責任と計算において従来どおりの事業活動を行い、その経済的効果を直接自己に帰属させていたものであり、換言すれば、法人を仮装して個人として事業を営んでいたものというべきであり、所得税法は実質所得者課税の原則をとっているから、実質上の所得者である原告を営業所得者と認定したものである。

(所得税の課税処分の根拠について)

一  昭和三六年分

1  事業所得の金額 八二万三、四七八円

前記営業所得の主体についての主張のとおり、東京矢ケ崎松本出張所の事業収入は原告に帰属するから、原告提出の松本出張所の昭和三六年度分損益計算書の記載額(以下「原告記載額」という。)のうち、所得税法上必要経費と認められない金額及び収益に計上できない金額を除外して、次表のとおり原告の事業所得の金額を算定した。

<省略>

(一) 順号<2>について

原告の作成した工事原価計算のなかに、原告本人の給与として二七万三、〇〇〇円が計上されていたが、事業所得者の労働の対価は所得を構成するもので、事業所得計算上の必要経費とはならないから右金額を工事原価から除外した。

(二) 順号<3>について

右(一)により完成工事原価が二七万三、〇〇〇円減少したので、これにともない完成工事総利益は二七万三、〇〇〇円増加した。

(三) 順号<4>について

給料、賃金、手当として支出された金額のなかに原告の給与一二万円が計上されていたが、前記(一)と同様の理由から必要経費の金額から除外し、原告の妻の給与一二万円については、原告は青色申告書を提出することについて税務署長の承認を得ていないので、所得税法(昭和三六年法律第三五号による改正後のもの)一一条の二第一項の規定により当該事業の必要経費には計上しない、また、租税公課として支出した金額の中に、原告の昭和三五年分所得税確定申告による納付額二〇万五、四六〇円、昭和三六年分所得税予定納税額五万二、三六〇円及び市民税八万一、八二〇円、合計三三万九、六四〇円が含まれていたので、所得税法(同前のもの)一〇条三項の規定により必要経費の額から除外した。

その他の一般管理費項目については、原告記載額を認容した。

(四) 順号<5>及び<8>について

順号<8><4>の修正により営業利益及び事業所得の金額を修正した。

(五) 以上の修正により、原告の事業所得の金額を八二万三、四七八円と認定した。

2  配当所得の金額 七万二、〇四二円

原告の昭和三七年三月一三日申告による配当所得をそのまま認定した。

3  課税標準(総所得金額) 八九万五、五二〇円

原告の総所得金額は右1、2の合計額である。

4  税額の算出

右8により認定した所得金額から各種の控除を行って当時の所得税法(昭和三六年法律三五号による改正後のもの)により税額を算出した。

その算出根拠は次表のとおりである。

<省略>

二  昭和三七年分

1  事業所得の金額 一四九万四、七五九円

右一の1と同様の根拠により、次表のとおり原告の記載した昭和三七年分損益計算書を修正して算出した。

<省略>

(一) 順号<2>について

昭和三六年分において述べたのと同様に、工事原価計算書のなかに記載計上されていた原告の給料五七万六、六〇〇円を工事原価から除外した。

(二) 順号<3>について

右(一)により完成工事原価が減少したので、完成工事総利益はその分だけ増加した。

(三) 順号<4>について

昭和三六年分において述べたと同様、原告及び原告の妻に対する給与合計一七万四、五〇〇円を必要経費から除外し、昭和三六年分所得の帰属を原告と認定したことから、右所得に対する事業税額を二万九、九二〇円と認定して経費に加算するとともに、原告記載額の市民税の額二万八、八五〇円を必要経費から除外した。

(四) 順号<5>について

右(二)(三)により修正した。

(五) 順号<6>について

原告が雑収入として記載した八万二、九二三円の中に受取利息二万三、二二〇円が含まれているが、利子所得については、租税特別措置法(昭和三六年法律第四〇号改正後のもの)三条により他の所得と区分して所得税を課税することになっているので、右受取利息の金額を除外した。

(六) 右により修正した事業所得は一四九万四、七五九円であり、これを認定した。

2  課税所得 一四九万四、七五九円

当年度は事業所得しかないのでこれを課税所得と認定した。

3  税額の算出

右2により認定した所得金額から当時の所得税法(昭和三七年法律四四号による改正後のもの)により税額を算出したが、扶養控除、配偶者控除その他の所得控除については、同法二八条の規定により控除しなかった。

その算出根拠は次表のとおりである。

<省略>

三  昭和三八年分

1  事業所得の金額 一三四万一、八五二円

前記一の1と同様の根拠によって、次表のとおり原告の記載した昭和三八年一月一日から同年六月三〇日間の損益計算書を修正し算出した。

<省略>

(一) 順号<1>について

被告が東京矢ケ崎から松本矢ケ崎への引継資産について調査したところ、引継時である昭和三八年六月三〇日現在の松本出張所の未収入金は七〇万八、六八八円であったが、松本矢ケ崎設立時(同年七月一日現在)の未収入金は八八万八、六八八円であり、その差額一八万円は松本出張所の次の三取引先に対する昭和三八年六月三〇日以前の売上代金の計上洩れであると認められたので、収入金額に加算した。

<省略>

(二) 順号<2>について

一の1の(一)と同様に、工事原価計算書中に記載計上されていた原告の給料三二万七、四〇〇円を工事原価から除外した。

(三) 順号<3>について

右(一)及び(二)により完成工事総利益を修正した。

(四) 順号<4>について

原告は、工事進行中の建物について、松本矢ケ崎に引継ぐ際、見積利益として一四五万〇、八九二円を計上してこれを工事進行中の建物の投下原価の額一、一四二万四、三五八円に加算し、その合計額一、二八七万五、二五〇円をもって未成工事の価額として引継いでいるので、所得金額算出上の収入金額の帰属について規定した所得税法取扱通達(昭和二六年直所一-一「所得税法に関する基本通達について」)一九八項の方法により、見積利益額を九六万五、五六〇円と算出し、右金額を超える部分の金額四八万五、三三二円について原告計上額から減額した。

工事の請負について見積もられる予想利益の額は、工事請負額二、五一五万〇、一二〇円から原告の予想工事原価二、三一九万〇、三八六円を控除した一九五万九、七三四円であり、未完成工事売却益を求める算式は次のとおりである。

<省略>

<省略>

(五) 順号<5>について

一の1の(三)と同様に原告及び原告の妻の給料一四万〇、六〇〇円を必要経費の金額から除外し、昭和三七年分及び昭和三八年六月までを原告個人の事業と認定したことから右期間中の所得に対して賦課される事業税を、昭和三七年分六万四、七三〇円、昭和三八年分六万一、五九〇円と認定し、原告計上額に加算するとともに、原告記載額中の昭和三八年分国民健康保険税四万一、七一〇円を除外して一般管理費を修正した。

(六) 順号<6>について

右順号<3>ないし<5>により修正した営業利益である。

(七) 順号<7>について

二の1の(五)と同様受取利息五万二、八七五円を除外した。

(八) 順号<8>について

原告の記載した支払利息中に昭和三八年七月一日以降の期間に対応する金額五万五、八九〇円があったが、引継ぎ時においては未経過であって前払費用となるべきものであるから右金額を経費から除外した。

(九) 順号<9>について

順号<6>ないし<8>により所得金額を修正したものである。

2  給与所得の金額四四万七、四四〇円

原告は松本矢ケ崎から昭和三八年中に給料及び賞与として五五万一、六〇〇円の支給を受けているので、右金額から所得税法(昭和三八年法律五五号による改正後のもの)九条一項五号ロに規定する給与所得控除額一〇万四、一六〇円を控除して算出した。

3  配当所得の金額一三万五、〇二〇円

原告が昭和三八年中に受けた次の配当収入金額である。

<省略>

4  課税標準(総所得金額)一九二万四、三一二円

被告が認定した原告の昭和三八年分所得税の課税標準(総所得金額)は前記1ないし3の合計金額である。

5  税額の算出

右4により認定した所得金額から各種の控除を行って当時の所得税法(昭和三八年法律五五号による改正後のもの)及び租税特別措置法(昭和三八年法律六五号による改正後のもの)により税額を算出した。

その算出根拠は次表のとおりである。

<省略>

(重加算税の賦課処分の根拠について)

被告は、右所得税納付の主体及び課税処分の根拠について前述した事実からみて、原告個人が法人を仮装して事業を営み事業所得が存するにもかかわらず、事業所得が存しない旨申告したことは、所得税法(昭和三八年法律五五号による改正後のもの)五七条及び国税通則法六八条にいわゆる事実を仮装、隠ぺいしたものと認められるので、重加算税の賦課決定をしたものである。

第四被告の主張に対する原告の認否及び反論

一  営業主体についての一は否認する。

原告が東京矢ケ崎に入社するには、個人営業の廃止を届出で、東京矢ケ崎は松本出張所の営業開設の手続をすればよいのである。

二  同二は否認する。

昭和三六年六月一日から昭和三八年六月までの松本出張所における会計は、本社から遠く離れているため、業者の慣例に従って本社とは別の現場会計で記帳を行っていたものであって、収支はこれを明らかにしているものであるから、多数の科目のうち若干の科目が原告の名義を用いて行われたとしても全体としてあるいは経理上本社の取引と認められればよく、松本出張所の記帳には、本店の取引であることを疑わせるものは存しない、また、現場会計は請負工事の出先の前渡金だけでこれをまかなっていたとしても、その収益が本社に帰属すればそれで足りるのであって、本件の場合松本出張所は収益の全額を本社に納入していたものである。

三  同三は否認する。

松本矢ケ崎は、松本出張所の営業を引継いだものではなく、東京矢ケ崎が倒産し、残工事を継続することが不可能となったため、工事の遅延により注文主がこうむるべき不測の損害及び混乱等を防止するための緊急手段として残工事を行ったものである。

四  同四は争う。

昭和三六年六月から昭和三八年六月までの間、原告は、東京矢ケ崎の社員として活動し、一意専心会社業務の発展に努力をして来たものであって、東京矢ケ崎の社名を僣称して自己の営業をしていたものではない。

五  所得税課税の根拠についての一ないし三の各1は否認する。

松本出張所における昭和三六年中の収益は八万五、二一九円であって、この金額は東京矢ケ崎に送金している。また、昭和三七年中の収益は七六万七、八四九円、昭和三八年中のそれは一二六万〇、七七九円であって、いずれも東京矢ケ崎に送金している。

六  同一ないし三の各課税標準額及び税額の算出についてはいずれも争う。

七  重加算税賦課決定の根拠は否認する。

原告は、すでに述べたように法人を仮装して個人事業を営んでいたものではないから、税負担は東京矢ケ崎がなすべきものであって、原告には何らの責任はない。

(証拠)

第一原告

一  甲第一号証の一ないし一〇、第二号証の一ないし三、第三号証の一ないし八、第四号証の一ないし四、第五号証、第六号証の一ないし四、第七号証の一ないし一〇、第八号証の一、二、第九号証

二  証人飯沼千昭、矢ケ崎忠実、宮原千賀恵、斉藤長夫、宮島茂雄、穂刈甲子男、江上精亮の各証言、原告本人矢ケ崎昭三郎尋問の結果(第一、二回)

三  乙第九号証、第一一ないし第一三号証、第一五ないし第二〇号証の成立は不知、その余の乙号各証の成立は認める。

第二被告

一  乙第一号証の一ないし九、第二号証の一、二、第三、四号証、第五号証の一、二、第六号証の一ないし四、同号証の五、六の各一、二、第七号証の一、二、第八号証の一ないし七、第九ないし第二一号証

二  証人中村伸の証言(第一、二回)

三  甲第一号証の一の建設大臣官房建設業課及び東京都住宅局の各押印部分、第一号証の八、第二号証の一ないし三、第四号証の一ないし四、第五号証、第八号証の一、二、第九号証の各成立は認める(第一号証の八、第二号証の一ないし三は原本の存在とも)、第一号証の一のその他の部分及びその余の甲号各証の成立は知らない。

理由

一  請求原因一項の本件課税処分の経緯については当事者間に争いがない。

二  まず、本件課税における営業所得の主体について検討する。

1  成立に争いのない乙第一号証の一、九、第二号証の一、第五号証の二、証人矢ケ崎忠実、中村伸(第一回)の各証言、原告本人(第一回)尋問の結果によれば、昭和三六年六月に原告は従来の事業を廃止して、東京矢ケ崎の松本出張所長という形式をとったこと、原告が従前使用していた帳簿類は引続き松本出張所の営業について使用していること、松本出張所は原告が個人事業当時事業の用に供していた建物、車輛、機械、工具、器具、備品を使用して営業をはじめたこと、その資産について東京矢ケ崎と原告との間には譲渡とか賃貸借とかの明確な契約は何一つ存しないことなどが認められる。

2  成立に争いのない乙第一号証の一ないし九、第三、四号証、第五号証の一、二、第二一号証、証人矢ケ崎忠実の証言、原告本人(第二回)尋問の結果及びこれにより成立の認められる甲第一号証の一〇、第三号証の一ないし八、第六号証の二によれば、原告が東京矢ケ崎松本出張所長と称していた昭和三六年六月から昭和三八年六月までの間、東京矢ケ崎の事業年度は三月一日から翌年二月末日までであるのに対し、松本出張所においては一月一日から一二月末日までで会計を締切っていて、両者の間の事業年度に差異があること、松本出張所の経理は東京矢ケ崎の決算には含まれていないこと、原告の個人事業当時の取引を松本出張所の取引として計上していること、この松本出張所の営業期間中も原告個人名義で銀行取引が行なわれていること、この取引は回数も多く、連続しているところから事業による取引であること、期間中原告名義で東京矢ケ崎に送金していること、この送金は東京矢ケ崎に対する貸付金として処理されていること、送金は松本出張所の利益と認められるものが全額送金されていなかったことなどの経理上の問題点があったばかりではなく、原告に対する給与の取りきめもなく原告が松本出張所の事業収入から適宜に給与として取得していたこと、原告以外の従業員についても松本出張所の業務については松本出張所から給与が支払われていたこと、松本出張所の事業も原告が引受けていたこと、東京矢ケ崎から松本出張所に対して現場主任を派遣することはあったが、出張所の事業について十分な監督がなされたとはいえないこと、松本出張所は東京矢ケ崎の下請けのような形態であったこと、以上の各事実が認められる。

3  前記乙第一号証の一、二、第二号証の一、第三号証、第六号証の二、成立に争いのない乙第二号証の二、第六号証の四、第七号証の一、二、前記証人中村伸(第一回)及び証人飯沼千昭の各証言、前記原告本人(第一回)尋問の結果によれば、原告は昭和三八年六月二五日松本矢ケ崎を設立した際、松本出張所の営業資産等を引継いでいるが、東京矢ケ崎には何らの対価も支払われていないこと、松本矢ケ崎が引継いだものの中に東京矢ケ崎に対する貸付金があること、松本出張所が東京矢ケ崎の出張所であるとすれば本社に対する貸付金というのは経理上不合理であること、松本矢ケ崎が原告から引継いだ資産があるが、これは松本出張所の営業活動によって取得した資産であること、松本矢ケ崎が松本出張所から引継いだ借入金の中に原告個人が松本出張所長当時借入れた個人名義の借入金四八〇万円が存在することなどの事実が認められる。

4  右各認定事実を総合して考えると、被告主張のように、原告は東京矢ケ崎の従業員としてその事業に従事していたような形式はとっているが、松本出張所は、東京矢ケ崎と同一の企業体ではなくて、実質的には原告個人の責任と計算において事業活動を行っていたものであり、原告は、その経済的効果を直接自己に帰属させていたものであって、つまり法人を仮装して個人事業を営んでいたものというべきである。

5  ところで、所得税法(昭和四〇年法律三三号による改正前のもの)三条の二によれば、資産又は事業から生ずる所得の帰属について、その名義又は形式の如何にかかわらずこれを経済的、実質的に観察して事実上これを亨受する者の所得として所得税を課するいわゆる実質所得者課税の原則をとっているものであるから、前記認定のとおり原告個人が松本出張所の事業の実質所得者であり、原告を営業主体と認定した被告の処分は適法であるというべきである。

三  次に、昭和三六年分所得税の課税処分の適否について検討する。

1  成立に争いのない乙第一号証の八によれば、原告提出の昭和三六年分の損益計算書には、被告主張の昭和三六年分課税の根拠である原告記載額のとおりの記載があることが認められる。

2  証人中村伸(第二回)の証言及びこれによって真正に成立したと認められる乙第九号証によれば、原告記載額の完成工事原価一、三八四万七、五八五円の中には、原告の給与二七万三、〇〇〇円が計上されていることが認められるが、事業所得者の給与については必要経費とはならないものであるから、この金額を控除した一、三五七万四、五八五円が完成工事原価であり、完成工事高一、五六四万四、五四〇円から右完成工事原価を差引いた二〇六万九、九五五円が完成工事総利益であると認められる。

3  前記証拠及び成立に争いのない乙第一〇号証によれば、一般管理費の原告記載額一七八万八、五一九円の中には、原告の給与一二万円、原告の妻の給与一二万円、昭和三五年分の所得税納税額二〇万五、四六〇円、昭和三六年分の所得税予定納税額五万二、三六〇円、同年の市民税額八万一、八二〇円、合計五七万九、六四〇円が計上されていること、原告は青色申告書提出承認がなされていないこと、事業者の給与は経費とは認められないこと、所得税法(昭和三六年法律三五号による改正後のもの)一一条の二第一項の規定によれば事業者の妻の給与は必要経費と認められないこと、同法一〇条三項の規定によれば租税公課についても必要経費とは認められないことなどから、この金額を除外した一二〇万八、八七九円が一般管理費であると認められる。

4  前記完成工事総利益から右一般管理費を控除し、原告記載額による営業外利益を加算し、営業外費用を控除した事業所得の金額は、被告主張のとおり八二万三、四七八円となることが認められる。

5  前記乙第一〇号証によれば、原告は昭和三七年三月一三日付の昭和三六年分の所得税申告書に配当所得として七万二、〇四二円がある旨申告していることが認められるから、原告の昭和三六年分総所得は前記事業所得と配当所得の合計額八九万五、五二〇円であると認められる。

6  成立に争いのない乙第一〇号証によれば、昭和三六年分の原告の所得及び税額から控除されるべきものは、社会保険料三万二、七四〇円、生命保険料二万二、五〇〇円、配偶者九万円、扶養六万円、基礎九万円、配当一万四、四〇八円、源泉徴収税額七、二〇四円、予定納税額五万二、三六〇円であること、原告の申告による還付税額が五万五、三七二円であることが各認められる。

前記総所得から税法により各種控除をし、税額を算出し税額控除及び加算した原告の昭和三六年分所得税の額は、被告認定のとおり七万三、四九〇円であることが認められ、被告の課税処分は適法である。

四  更に、昭和三七年分所得税の課税処分の適否について検討する。

1  成立に争いのない乙第一号証の六によれば、原告提出の昭和三七年分の損益計算書には、被告主張の昭和三七年分課税の根拠である原告記載額のとおりの記載があることが認められる。

2  証人中村伸(第二回)の証言及びこれによって真正に成立したと認められる乙第一一号証によれば、原告記載額の完成工事原価一、七二二万一、七九三円の中には、原告の給与五七万六、六〇〇円が計上されていることが認められるが、事業所得者の給与については必要経費とはならないものであるから、この金額を控除した一、六六四万五、一九三円が完成工事原価であり、完成工事高一、九七三万二、三七六円から右完成工事原価を差引いた三〇八万七、一八三円が完成工事総利益であると認められる。

3  前記証拠によれば、一般管理費の原告記載額一七五万七、三九四円の中には、原告の給与二万一、二五〇円、原告の妻の給与一五万三、二五〇円、昭和三七年分の原告の市民税二万八、八五〇円が含まれているが、事業者及び事業者の妻の給与は必要経費とはならないこと、市民税は原告が個人として負担すべきものであって事業所得から控除すべきものではないから必要経費から除外していること、昭和三六年分所得を原告個人のものと認定されたことにより事業税が二万九、九二〇円課税されるが、これは事業所得の経費であること、原告記載額から右給与及び市民税額を除外し、事業税額を加算した一五八万三、九六四円が一般管理費であると認められる。

4  前記証拠によれば、原告記載額の営業外収益八万二、九二三円の中に受取利息割引料二万三、二二〇円があるが、これは利子所得であること、利子所得は租税特別措置法三条により他の所得と区分して所得税を課することになっているからこれを営業外収益から除外すべきであることが認められる。

5  原告の事業所得は右2ないし4に従い修正すると一四九万四、七五九円になること、これに税法による基礎控除をして算出した税額は被告認定のとおり二八万六、六〇〇円となるから、被告の課税処分は適法である。

五  続いて、昭和三八年分所得税の課税処分の適否について検討する。

1  成立に争いのない乙第一号証の四によれば、原告提出の昭和三八年分の損益計算書には、被告主張の昭和三八年分課税の根拠である原告記載額のとおりの記載があることが認められる。

2  成立に争いのない乙第一号証の二、三、証人中村伸(第二回)の証言及びこれにより成立の認められる乙第一二号証によれば、松本矢ケ崎の設立時における未収入金は八八万八、六八八円であるのに、昭和三八年六月三〇日現在の松本出張所の未収金は七〇万八、六八八円であってその差額は一八万円であること、この差額が未収入金の計上もれであるから、完成工事高は原告記載高よりも一八万円多い一、二九一万九、三四八円となることが認められる。

3  前記中村伸の証言及びこれにより成立の認められる乙第一三号証によれば、完成工事原価一、一八七万八、二八六円の中には三二万七、四〇〇円の原告の給料が含まれていること、これは工事原価とならないからこれを除外した額一、一五五万〇、八八六円が完成工事原価であると認められること。

4  成立に争いのない乙第八号証の六、前記中村伸の証言及びこれにより成立の認められる乙第一四号証によれば、松本出張所の昭和三八年六月末日までの工事の投下原価が一、一四二万四、三五八円であること、松本矢ケ崎に引継いだ際には一四五万〇、八九二円をこれに加算して一、二八七万五、二五〇円を未成工事の価額と見込んでいること、工事の引継時における見積利益は租税の基本通達により定められていること、これによれば請負見積予想額は工事請負額二、五一五万〇、一二〇円であり原告の予想工事原価は二、三一九万〇、三八六円であること、この差額一九五万九、七三四円が未成工事の予想利益となること、これに引継時の支出原価を完成時の工事原価で除したものを剰じたものが未成工事の売却益となりこの額が九六万五、五六〇円となることが認められる。

5  前記各証拠によれば、一般管理費一一七万五、一八三円の中に原告及び原告の妻の給与一四万〇、六〇〇円、原告の昭和三八年分国民健康保険税四万一、七一〇円が計上されていること、これらは経費とはならないこと、昭和三八年分所得を原告個人の事業と認定したことから原告の所得に対して賦課される昭和三七年分事業税は六万四、七三〇円、昭和三八年分事業税は六万一、五九〇円となること、この事業税は原告の必要経費として、控除されるべきものであること、右原告記載額から経費とならないものを除外し、必要経費となるべきものを加算した一一一万九、一九三円が一般管理費となることなどが認められる。

6  前記各証拠によれば、原告記載額の営業外収益五万二、八七五円は利子収入であること、利子収入は事業所得とは別に計算すべきであること、したがって、これを除外していることなどが認められる。

7  前記中村の証言及びこれにより真正に成立したと認められる乙第一二号証によれば、原告記載額の営業外費用一〇万八、八六七円の中に五万五、八九〇円の支払利息が含まれていること、この金額は昭和三八年七月一日以降の期間に対する利息であって引継ぎ時においては未経過のものであるから前払費用となるべきものである。したがって、経費から除外していることが認められる。

8  以上1ないし7により計算すると原告の事業所得は一三四万一、八五二円であると認めることができる。

9  前記中村伸の証言及びこれにより成立の認められる乙第一三号証によれば、原告は松本矢ケ崎から昭和三八年中に給与及び賞与として五五万一、六〇〇円の支給を受けていること、所得税法(昭和三八年法律五五号による改正後のもの)九条一項五号ロによれば、給与所得から控除すべき金額は一〇万四、一六〇円であって、これを控除した原告の給与所得額は四四万七、四四〇円であると認められる。

10  前記中村伸の証言及びこれによって真正に成立したものと認められる乙第一五ないし第一八号証によれば、原告の昭和三八年中に受けた配当収入は、八幡製鉄、六万〇、〇二〇円、鐘紡、九、〇〇〇円、日産自動車、三万円、松下電気、三万六、〇〇〇円の合計一三万五、〇二〇円であると認められる。

11  右事業所得、給与所得、配当所得を合算した一九二万四、三一二円が原告の総所得となること、これに税法に基づく各控除をなし税額を算出すれば、被告認定のとおり三〇万二、四七〇円となるから、被告の所得税課税処分は適法であると認められる。

六  進んで、重加算税の賦課処分の適否について検討する。

右二ないし五において認定した事実によれば、原告は自己が事業を営んでいるのにもかかわらず、自己の所得がある旨の申告をせず、法人の事業であるかのように申告していることが認められ、このことは事実を仮装、隠ぺいしたものというべきであるから、所得税法(昭和三八年法律五五号による改正後のもの)五七条及び国税通則法六八条によりなした重加算税賦課処分も適法であると認められる。

七  そうだとすれば、被告のなした各処分は適法であって、これが取消しを求める原告の本訴請求はすべて理由がないからこれを棄却し、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川名秀雄 裁判官 福井欣也 裁判官 三浦力)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例